IDEOジェーン・フルトン・スーリ氏による公開講義
“Design Inspired by Life”参加レポート・前編

shinomiyayuki

こんにちは。シノミーです。

だいぶ時間が経ってしまいましたが、2015年6月20日に行われた京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab主催のIDEOジェーンフルトンスーリ氏の公開講義“Design Inspired by Life”に参加してきましたので、そのレポートを公開します。

後編はこちら

ジェーン・フルトン・スーリ氏とは?

ご存知の方も多いと思いますが、はじめにジェーン・フルトン・スーリ氏について少し紹介します。ジェーン・フルトン・スーリ氏は、高名なデザインファームIDEOのCCO(Chief Creative Officer)であり、人間観察や人間中心設計(Human Centered Design、以下HCD)などのIDEOの代名詞的なアプローチの構築を社内で牽引されてきた方です。主な著作には「Thoughtless Acts」(邦題:考えなしの行動?)があります。

講義レポート“Design Inspired by Life”

この公開講義は京都工芸繊維大学の教室にて行われました。参加者は目視ですが100人弱、IT系の仕事をしている社会人の方から違う大学の大学生まで幅広い層の方が参加されていました。講義は英語で行われたのですが、スーリ氏の話を逐次通訳していくという形で行われていたため、英語があまり得意でない私も講義の内容を十分に理解することできました。講義の概要は以下のとおりです。

・はじめに、生命中心設計について
・LCD① 生命と共存するデザイン
・LCD② 結果を作り出す状態を生み出すデザイン
・LCD③ 相互に価値を生み出すデザイン
・LCD④ 文脈に合致したデザイン

各パートごとに印象に残った内容を紹介していきます。

はじめに、HCDとLCDについて

スーリ氏の講義は、アインシュタインのある言葉の引用からスタートしました。
“A human being is part of a whole, called by us the ‘Universe’ —a part limited in time and space〜”
これは「人間は自然の小さな一部にすぎない」という意味の発言であり、今回の講義ではこの観点から生命中心設計(Life Centered Design、以下LCD)について考えてみるということでした。
このLCDが、IDEOの代表的な手法であるHCDと違う点は、「人間」でなはく「(エコシステムとしての)生命全体」をデザインやインスピレーションの対象とする点です。従来IDEOではHCDという観点から、人の行動を観察しそこから着想を得てサービスや製品を改善するというアプローチをとってきました。しかし今日、デザイナーが解決すべき問題はますます複雑になってきており、政治・経済・環境など様々な観点から問題を捉え、「システム」としてデザインを行う必要が出てきています。そんな中で「人間」ではなく「生命全体」からインスピレーションを考える必要性がでてきているとのことでした。

このような文脈の中でLCDについて、4つの観点からお話をしていただきました。

LCD① 生命と共存するデザイン

まず一つ目は「生命と共存するデザイン」についてです。スーリ氏によると、この百年の間、人類の技術は「ヒトVS自然」という考え方の中で発展を続け、それはさながら「人間が自然をコントロールする」ようなものだったそうです。しかし実際は、ポリオワクチンの開発者の「人間は昆虫が居ないと滅ぶ、しかし人間がいなくなると他の生命が栄える。」という言葉に現れているように人間は自然の中で他の生命に依存して生きているため、自然を「支配」するのではなく自然と「共存」するようなアプローチが必要だと仰っていました。ここで講義中に取り上げられていた具体例を紹介します。

例:ハキリアリ
葉っぱを食べるのではなく、葉っぱを使って菌類(キノコ)を育てその胞子から栄養を得る。
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→ここから着想を得て人間の体についている微生物を「殺す」のではなく「育てる」というアプローチ
(例:個人の体についている微生物を取って培養し、その人に合った石鹸やクリームを作る)
→細菌類からヒントを得て、ものの作り方・プロセスそのものを再構築するアプローチ
(例:光に反応して特定の形状に変化する細菌類を利用して、カップそのものがプロバイオティクスでできたコップを作る。「体に良い飲み物を作って、ボトリングして…」というプロセスではなく、「コップに水を注げば体に良い飲み物になる」という新たなプロセスを形成)

まとめ
・自然のプロセスに逆らわず活用させてもらうことが重要。
・そのためには、自然の仕事を観察し自然と共存するやり方でいろいろ試す。

LCD② 結果を作り出す状態を生み出すデザイン

次にご紹介いただいたのは「結果を作り出す状態を生み出すデザイン」です。これは「結果そのもの」をデザインするのではなく、結果に至るような・生まれるような状態をデザインするという考え方です。

例:ビーバー
ビ−バーがとある川に巣を作ると、川の環境が変化し生物多様性が30%増した。
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→ここから着想を得て目指すべき結果に至る「環境」を作り出すというアプローチ
(例:2,30代の保険に関心が無い人を惹きつけるためにカフェのようなスペースを作り、その人達が惹きつけられるような環境を作り出したある保険会社)

例②:シロアリの塚
トップダウンで意図的に設計されたものではなく、一匹ずつのアリがシンプルなルールに従って行動した結果生まれた構造物。優れた環境適応性を持つ。
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→ここから着想を得てシンプルなルールを活かすことで望んだ結果を生み出すアプローチ
(例:ドライバーが左に曲がるだけで機能するラウンドアバウト。状況適応力がある。⇔信号もシンプルなルールだが、誰も居なくても信号が赤だと止まらなければいけないなど状況適応力が低い。)
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まとめ
・特定のものをデザインせず、結果が自ずと生まれてくるような状態をデザインする。
・そのためには特定の文脈で起こっている変化とその変化がもたらす全体への影響を観察する必要がある。そしてその中で特定の結果を発生させるために必要なルールを考えてみる。

以上が講義の前半部分でした。残りの2トピックと講義の所感は次回の記事で公開したいと思います。

 

Photo by Thinkstock/Getty Images

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