IDEOジェーン・フルトン・スーリ氏による公開講義
“Design Inspired by Life”参加レポート・後編

shinomiyayuki

こんにちは。シノミーです。

前回に引き続き、2015年6月20日に行われた京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab主催のIDEOジェーンフルトンスーリ氏公開講義“Design Inspired by Life”のレポートをお届けします。

前編はこちら

講義概要“Design Inspired by Life”

講義の流れは
・(はじめに、生命中心設計について)
・LCD① 生命と共存するデザイン
・LCD② 結果を作り出す状態を生み出すデザイン
・LCD③ 相互に価値を生み出すデザイン
・LCD④ 文脈に合致したデザイン
となっており、全体を通してLCD(Life Centered Design,生命中心設計)という新しい概念がテーマでした。

その中で今回は、後半部分の
・LCD③ 相互に価値を生み出すデザイン
・LCD④ 文脈に合致したデザイン
についてレポートしていきます。

LCD③ 相互に価値を生み出すデザイン

この章では「相互に価値を生み出すデザイン」また「システム全体に広く価値をもたらすデザイン」についてのお話をしていただきました。通常、デザインとは、特定の環境で特定のクライアントを満足させるためのサービスやモノを対象としてなされるものですが、ここでは考え方を変えて、関連するすべての要素に恩恵をもたらすようなデザインを考えてみようということをおっしゃっていました。

例:ヤドリギ
木に寄生して養分を吸うだけの植物だと思われているが、実はヤドリギの種が好物である鳥達が宿主の木に多く集まり、一緒に宿主の種や果実を食べるため、宿主も種が各所にばらまかれ繁栄することができる。

Mistletoe

→ここから着想を得て、一見競合して見えるが相互利益をもたらすようにするアプローチ
(例:Amazon。Amazonは小さな古書店・専門書店と競合している側面もあるが、それらの書店にAmazonのプラットフォームを通じてグローバルレベルの販路を提供している。)

例②:自然界での樹木のリサイクル
樹木はその300年ほどの寿命のうち、最初の100年を成長にあて、次の100年で成熟した生を生き、最後の100年で朽ち果てながら森のエコシステム全体に栄養などを還元していく。

Sunlight breaking through misty forest

→ここから着想を得て、エコシステム全体に利益をもたらすようにデザインするアプローチ
(例:テスラのEV特許無料公開。競合を含めた電気自動車産業全体に特許を公開することで、産業のインフラや周辺製品を含めたエコシステム全体としての成熟を促し、全体に利益をもたらすことが出来る。)

まとめ
・見方を変えて、相互利益を得られるような考え方をする。
・デザイナーとしてクライアントに相互利益をもたらすようなデザインを提案しよう。

LCD④ 文脈に合致したデザイン

そして最後にスーリ氏が紹介して下さったのは「文脈に合致したデザイン」です。これは、生物学者のダーウィンが発見した島ごとにくちばしの形が異なるフィンチのように、周囲の条件・環境に適合するデザインという意味だそうです。

例:ボブテイルスクイッド
夜間の食事中外敵に見つからないように、その時の月光の強さと同じ強さの光を体から発して姿を隠す。

Bobtail Squid

→ここから着想を得て、環境の中に溶け込ませる・フィットさせるアプローチ
(例:”solar ivy”というツタの葉のような太陽電池。旧来の太陽電池の、周囲の風景や環境に合わない・製造過程がエコでない・システムの一部が破損すると全体が動かなくなるといった問題点を克服)

まとめ
・個別に完結したデザインでなく、幅広い文脈に適合したデザインをする。
・システム全体に含まれる要素の関係性を理解し、それをデザインによって表現する・生かす。

全体のまとめ

最後にスーリ氏は、デザイナーがLCDを行うに当たって気をつけることを、これまでの項目と対応させて4つ紹介してくださりました。
・自然界の流れに自分たちのプロセスを沿わせて、他の生命からも学びヒントを貰う。
・トップダウンで解決策を与えるのではなくて、解決策が生まれてくるような条件状態を設定する。
・自分が与えられた問題だけを解決するのではなく、より幅広い価値が提供されるようなソリューションを作り出す。
・幅広いコンテクストで機能しうるデザインをする

以上のアドバイスを最後に講義は終了しました。(この後30分ほどの質問セッションが設けられていました。)

所感

LCDという、HCDをさらに拡大した考え方が非常に斬新で興味深く感じました。しかしLCDの4つの観点はどれも抽象的&状況が限定的なので、LCDの概念をベースにデザインを行っていくのは当然ながらなかなか困難なように思われます。とは言っても、LCDの中にある、持続可能性の高いプロダクト・サービスをデザインするための考え方や、自然界からデザインのインスピレーションを得るという発想は広く活用できるものかもしれません。

また講義を通じて、スーリ氏が短期的な利益だけでなく、長期的な産業全体の持続可能性、さらに場合によっては地球環境問題に関連するような何十年・何百年先での持続可能性ことも考慮にいれつつ、デザインという概念を再構築しようとしているように感じました。これは究極的にはデザインの理想型の1つなのかなと、個人的に感じました。

以上講義のレポートでした。

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IDEOジェーン・フルトン・スーリ氏による公開講義
“Design Inspired by Life”参加レポート・前編

shinomiyayuki

こんにちは。シノミーです。

だいぶ時間が経ってしまいましたが、2015年6月20日に行われた京都工芸繊維大学KYOTO Design Lab主催のIDEOジェーンフルトンスーリ氏の公開講義“Design Inspired by Life”に参加してきましたので、そのレポートを公開します。

後編はこちら

ジェーン・フルトン・スーリ氏とは?

ご存知の方も多いと思いますが、はじめにジェーン・フルトン・スーリ氏について少し紹介します。ジェーン・フルトン・スーリ氏は、高名なデザインファームIDEOのCCO(Chief Creative Officer)であり、人間観察や人間中心設計(Human Centered Design、以下HCD)などのIDEOの代名詞的なアプローチの構築を社内で牽引されてきた方です。主な著作には「Thoughtless Acts」(邦題:考えなしの行動?)があります。

講義レポート“Design Inspired by Life”

この公開講義は京都工芸繊維大学の教室にて行われました。参加者は目視ですが100人弱、IT系の仕事をしている社会人の方から違う大学の大学生まで幅広い層の方が参加されていました。講義は英語で行われたのですが、スーリ氏の話を逐次通訳していくという形で行われていたため、英語があまり得意でない私も講義の内容を十分に理解することできました。講義の概要は以下のとおりです。

・はじめに、生命中心設計について
・LCD① 生命と共存するデザイン
・LCD② 結果を作り出す状態を生み出すデザイン
・LCD③ 相互に価値を生み出すデザイン
・LCD④ 文脈に合致したデザイン

各パートごとに印象に残った内容を紹介していきます。

はじめに、HCDとLCDについて

スーリ氏の講義は、アインシュタインのある言葉の引用からスタートしました。
“A human being is part of a whole, called by us the ‘Universe’ —a part limited in time and space〜”
これは「人間は自然の小さな一部にすぎない」という意味の発言であり、今回の講義ではこの観点から生命中心設計(Life Centered Design、以下LCD)について考えてみるということでした。
このLCDが、IDEOの代表的な手法であるHCDと違う点は、「人間」でなはく「(エコシステムとしての)生命全体」をデザインやインスピレーションの対象とする点です。従来IDEOではHCDという観点から、人の行動を観察しそこから着想を得てサービスや製品を改善するというアプローチをとってきました。しかし今日、デザイナーが解決すべき問題はますます複雑になってきており、政治・経済・環境など様々な観点から問題を捉え、「システム」としてデザインを行う必要が出てきています。そんな中で「人間」ではなく「生命全体」からインスピレーションを考える必要性がでてきているとのことでした。

このような文脈の中でLCDについて、4つの観点からお話をしていただきました。

LCD① 生命と共存するデザイン

まず一つ目は「生命と共存するデザイン」についてです。スーリ氏によると、この百年の間、人類の技術は「ヒトVS自然」という考え方の中で発展を続け、それはさながら「人間が自然をコントロールする」ようなものだったそうです。しかし実際は、ポリオワクチンの開発者の「人間は昆虫が居ないと滅ぶ、しかし人間がいなくなると他の生命が栄える。」という言葉に現れているように人間は自然の中で他の生命に依存して生きているため、自然を「支配」するのではなく自然と「共存」するようなアプローチが必要だと仰っていました。ここで講義中に取り上げられていた具体例を紹介します。

例:ハキリアリ
葉っぱを食べるのではなく、葉っぱを使って菌類(キノコ)を育てその胞子から栄養を得る。
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→ここから着想を得て人間の体についている微生物を「殺す」のではなく「育てる」というアプローチ
(例:個人の体についている微生物を取って培養し、その人に合った石鹸やクリームを作る)
→細菌類からヒントを得て、ものの作り方・プロセスそのものを再構築するアプローチ
(例:光に反応して特定の形状に変化する細菌類を利用して、カップそのものがプロバイオティクスでできたコップを作る。「体に良い飲み物を作って、ボトリングして…」というプロセスではなく、「コップに水を注げば体に良い飲み物になる」という新たなプロセスを形成)

まとめ
・自然のプロセスに逆らわず活用させてもらうことが重要。
・そのためには、自然の仕事を観察し自然と共存するやり方でいろいろ試す。

LCD② 結果を作り出す状態を生み出すデザイン

次にご紹介いただいたのは「結果を作り出す状態を生み出すデザイン」です。これは「結果そのもの」をデザインするのではなく、結果に至るような・生まれるような状態をデザインするという考え方です。

例:ビーバー
ビ−バーがとある川に巣を作ると、川の環境が変化し生物多様性が30%増した。
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→ここから着想を得て目指すべき結果に至る「環境」を作り出すというアプローチ
(例:2,30代の保険に関心が無い人を惹きつけるためにカフェのようなスペースを作り、その人達が惹きつけられるような環境を作り出したある保険会社)

例②:シロアリの塚
トップダウンで意図的に設計されたものではなく、一匹ずつのアリがシンプルなルールに従って行動した結果生まれた構造物。優れた環境適応性を持つ。
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→ここから着想を得てシンプルなルールを活かすことで望んだ結果を生み出すアプローチ
(例:ドライバーが左に曲がるだけで機能するラウンドアバウト。状況適応力がある。⇔信号もシンプルなルールだが、誰も居なくても信号が赤だと止まらなければいけないなど状況適応力が低い。)
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まとめ
・特定のものをデザインせず、結果が自ずと生まれてくるような状態をデザインする。
・そのためには特定の文脈で起こっている変化とその変化がもたらす全体への影響を観察する必要がある。そしてその中で特定の結果を発生させるために必要なルールを考えてみる。

以上が講義の前半部分でした。残りの2トピックと講義の所感は次回の記事で公開したいと思います。

 

Photo by Thinkstock/Getty Images

新製品は誰に売ればヒットするのか
【イノベーター理論2】

shinomiyayuki

こんにちは。シノミーです。今回も僕の大学での学習テーマである【イノベーションマネジメント】について、学んできたことを紹介させていただきます。
>> 前回の記事はこちら

前回はイノベーター理論を用いて、「新製品の普及が進むにつれ、その製品を買う人が変わっていく」という話をご紹介しました。今回はそのイノベーター理論の中で「実際に新製品を売る際にどの層が一番重要か」つまり「新製品は誰に売ればヒットするか」ということを考えていこうと思います。

普及率16%の論理

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以前お伝えしたとおり、イノベーター理論では、新製品の普及が進むにつれ、その製品を買う人の特性が上図のように変化していくとされています。では今回は、このイノベーター理論の図と「各時点での製品の普及率」を合わせて考えてみましょう。
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上図はイノベーター理論の分布図にその時点での製品の普及率のグラフを重ねたものです。この図から、アーリーアダプターの層を超えた時点(約16%の普及率)から、製品が急速に普及していくことがわかると思います。これは次の購入層であるアーリーマジョリティが非常にボリュームの大きい層であることが原因です。つまりアーリーアダプターに製品を買ってもらうことは、その製品を広く普及させる上で非常に重要になってくるのです。

またアーリーアダプターが非常に重要である理由はもう1つあります。それはアーリーアダプターはいわば「自動広告塔」であるということです。一般に、「アーリーアダプターは、他の人々(特に次の購入層であるアーリーマジョリティ)に対して大きな影響力を持っていることが多い」とされています。これは、アーリーアダプターが①製品があまり普及していない早期の段階で、使用した感想を発信しはじめること、②いつも早い時期に製品を買うため、オピニオンリーダーとして注目されているような人が多く、意見の影響力が高いこと③より早期に製品を買うイノベーターに比べ人数が多く拡散力があること、が原因です。そのためアーリーアダプターに商品を届けて満足してもらうことができれば、彼らが勝手に広告塔となって商品を宣伝してくれるというわけです。

以上の2つの理由から新製品ヒットの鍵を握っているのはアーリーアダプターであると言えるでしょう。

ネット時代のアーリーアダプター

この理論は1960年代というインターネット未発達の時代に生まれたものであるため、ネット上で「(リアル世界において)周りに製品を持っている人がいなくても」製品の評判を確認できたり、それによって爆発的に製品が普及しうるような今の環境は考慮されていないと考えられます。しかしこのようなネットの時代においては、アーリーアダプターのような「早期に製品を買った人の影響力(拡散力)」はより強くなったと言えるのではないかと個人的には思います。新製品を売る際は、「現代のアーリーアダプター」を正確に特定し、彼らにフォーカスしたマーケティング施策を考えることが大事かもしれませんね。

キャズム理論

さて、ここまでロジャーズ教授のイノベーション理論に基いて「新製品を売る際にどの層が一番重要か」という話をしてまいりましたが、実は「ハイテク製品においては、アーリーアダプターとアーリーマジョリティの間に大きな溝(キャズム)が存在するため、アーリーアダプターに製品が売れてもそこからヒットしていかない」ということが別の経営学者によって指摘されています。
次回はこの点について詳しく紹介していきたいと思います。

最初にスマホを買ったのはどんな人達?
【イノベーター理論】

shinomiyayuki

みなさんはじめまして!リニューアルした小僧ハウスのライターになりました、インフォバーン京都アルバイトのシノミーです。初回の記事ということで、まず簡単に自己紹介させていただきます。私は京都在住の大学生で、大学では「イノベーションマネジメント」、つまり革新的な製品・サービスをいかに生み出し、いかに育てていくべきかということを学んでいます。当ブログではそのような大学での学習テーマから、みなさんの仕事に役立ちそうな理論・フレームワーク等を紹介していきたいと思います。よろしくお願いいたします。

イノベーター理論

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突然ですが、みなさんはスマートフォンをいつ頃からお使いですか?
僕は、3年ほど前のiPhone4Sが発売された時にスマホを使い始めたのですが、その時すでに周囲の約3分の1の人がスマホを使っていました。さて、なぜこのように人によってスマホを買うタイミングが変わってくるのでしょうか?一見当たり前のように思えるこの疑問ですが、実はスマホのような(少なくとも登場時には)革新的な製品を、いつ誰が買いはじめるかというのは、ある程度理論化されているのです。それがイノベーター理論です。

イノベーター理論とは、1962年にオハイオ州立大学(論文発表当時)のエベレット・M・ロジャース教授が提唱した、革新的な新製品の普及についての理論です。彼はこの理論の中で、ある新商品を購入する人々は、購入の早い順に「5つのクラスタ」に分類できると主張しました。
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【イノベーター】 人口比2.5%
まずはじめに新製品を買う人々。冒険的。技術思考が強く、目新しさ、革新性を求めて商品を買う。
【アーリーアダプター】 人口比13.5%
流行に敏感で、情報収集を自ら行い、判断する人々。自分にとってその商品が役に立つかを自ら考え、購入に踏み切る。周りに使っている人がいるかどうかは気にしない。
【アーリーマジョリティ】 人口比34.0%
新しい様式の採用に比較的慎重な人々。確かな実用性を重視するため、先行事例を気にする。
【レイトマジョリティ】 人口比34.0%
比較的懐疑的な人々。その製品を周囲の大多数が使用していて、持っていないと不便を感じるようになると商品の購買を決意する。
【ラガード】 人口比16.0%
保守的な人々。新商品が伝統・常識といえるレベルで定着して初めて商品を買う。もしくは永久に買わない。

スマートフォンにおけるイノベーター理論

では、先ほどのスマートフォンの例に戻って考えてみます。
【イノベーター】 人口比2.5%
スマートフォンが登場。まわりに使っている人がおらず、本当に便利か確証が持てないが、斬新で面白そうなので購入。
【アーリーアダプター】 人口比13.5%
聞くところによると、スマートフォンというものがギークの間ではやっているらしい。周りに持っている人はいないが、インターネットで情報を収集して自分なりに検討したところ、どうやらこれはうまく使えば役に立ちそうだ。購入を決意。
【アーリーマジョリティ】 人口比34.0%
周囲にポツポツスマートフォン使っている人が現れてくる。彼らに話を聞くと、どうやら結構便利らしい。周りの評判もいいし、確かに便利なのだろう。購入を決意。
【レイトマジョリティ】 人口比34.0%
気がつけば周囲の人は半分以上スマートフォンを持っている。望んでスマートフォンを買いたいわけではないが、持っていないと周囲との連絡がとりにくく、生活に支障をきたすようになってきた。購入を決意。
【ラガード】 人口比16.0%
周りの人はほぼスマートフォンを持っている。が新しいものを使う気にはならない。買わない。

とこのような感じになると思います。この理論に基づいて考えると、周囲の人の3分の1くらいがスマホを使いはじめたタイミングでiPhone4Sを買った僕は、アーリーマジョリティということになりますね。

もちろん厳密にはこのようにきれいに分かれるわけではなく、製品の特性によってクラスタの分布や性質も少しずつ異なってくると思います。しかしこの理論と現在の製品の普及率などを組み合わせて使えば、次に商品を買うのはどんな人達かをざっくりと推測することができると思います。なのでwebを利用したマーケティング戦略を考える際も、売りたい製品・サービスが今どの程度普及しているかということも少し考えてみるのも面白いかもしれませんね。

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